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イノベーションを伴う事業承継が地方創生につながる!
地方創生と事業承継・イノベーションを議論するイノベーションハブ第6回シンポジウム
2024年12月11日、東京都の新丸ビルにて一般社団法人イノベーションハブ主催の第6回シンポジウムに参加してきたので報告します。本シンポジウムは、石破内閣が掲げる最重要政策「地方創生」を基軸に、日本経済を支える中小企業の「事業承継」と「イノベーション」をテーマに実施され、多くの参加者が熱気あふれる議論に耳を傾けました。
事業承継とスタートアップ起業のいずれにおいても、成長を牽引する鍵となるのはイノベーションの推進です。この視点に立脚し、シンポジウムでは多様な立場の専門家が登壇しました。内閣の政策立案を担うキーパーソン、中小企業庁の政策責任者、そして一橋大学名誉教授でありイノベーションハブ理事長を務める伊丹敬之氏をはじめ、事業承継の最前線で奮闘する経営者が登壇。理論と実務の両面から深い洞察が共有されました。
シンポジウムを通じて、イノベーションが地方創生や中小企業の未来を切り拓く原動力であることを再認識するとともに、日本経済の持続可能な発展に向けた具体的なヒントや実践的な知見を得る貴重な機会となりました。
今回お伝えしたいポイント1. 中小M&Aにおける地方創生
2.事業承継・M&Aに関する施策の動向
3.これからの地方創生と人口減少問題への対応
4.事業承継とイノベーション:その地方創生への意義
5.まとめ
中小M&Aにおける地方創生
中小企業M&Aの未来を切り拓く:M&Aホールディングスの挑戦
株式会社M&Aホールディングス代表取締役社長の佐上峻作氏が登壇し、同社創業の背景とこれまでの歩みについて語りました。佐上氏は、自身の祖父が経営していた会社が後継者不在のため廃業に追い込まれた経験を振り返り、「同じような悲しみを味わう経営者を増やしたくない」という強い想いを胸に2018年に会社を創業。この想いが、同社の礎となりました。
M&A仲介サービスの課題と改革
創業当時、佐上氏はM&A仲介サービスにおける以下の課題を指摘しました。
- 手数料体系の不透明性
- アナログで非効率な業務プロセス
- 買い手候補企業との十分なマッチングの欠如
これらの課題を解決するため、同社では以下のような革新的な取り組みを推進しました。
- 完全成功報酬型の手数料体系を導入し、透明性を確保。
- DX(デジタルトランスフォーメーション)やAI技術を活用し、成約までの期間を短縮。
- マッチング専門部署を設置し、精度の高い仲介サービスを実現。
これらの取り組みが奏功し、同社は東証プライム市場への上場を果たすまでに成長しました。
地方創生と中小企業M&Aの意義
佐上氏は、地方創生の観点から中小企業同士のM&Aが果たす重要な役割についても強調しました。中小企業は地域社会におけるインフラそのものであり、後継者不足による廃業は地域住民の生活基盤を揺るがし、日本全体の国力低下を招きかねないと警鐘を鳴らしました。
徳島県三好市における成功事例
講演では、徳島県三好市の自動車整備業におけるM&A事例が紹介されました。この企業は後継者不在や業績悪化といった深刻な課題に直面していましたが、M&Aを通じて再生を果たし、自動車整備という地域に欠かせないインフラを持続的に提供する道を切り拓きました。この事例は動画で紹介され、中小企業にとってM&Aが持つ可能性を如実に示すものとなりました。
地域経済の活性化に向けたモデルケース
M&Aによって生まれる企業間のシナジーは、地域経済の活性化に寄与する成功モデルです。後継者不足に悩む多くの中小企業にとって、このような事例は未来を切り拓く貴重な指針となるでしょう。佐上氏は、「M&Aが中小企業の存続と成長の新たな扉を開く力となる」と締めくくり、地方創生への貢献を一層加速させる決意を表明しました。
事業承継・M&Aの現状と施策の動向
中小企業の事業承継・M&Aが地域経済と雇用維持の鍵に
経済産業省中小企業庁財務課課長補佐の田尻雄裕氏が登壇し、中小企業の事業承継とM&Aに関する施策の最新動向について講演しました。田尻氏は、事業承継やM&Aが単なる経営の引き継ぎを超え、地域経済の持続可能性、雇用の維持、さらには日本全体の経済成長に直結する重要なテーマであると強調しました。
経営者の高齢化と事業承継の進展
2023年時点で、中小企業経営者の平均年齢は60.5歳に達し、過去最高を更新。さらに、70代以上の経営者が占める割合も増加しています。しかし、その増加率は緩やかになってきており、後継者不在率の低下傾向も相まって、事業承継が一定の進展を見せていることが明らかになりました。
田尻氏は、「こうした統計データは、中小企業が次世代へのバトンタッチに取り組み始めている兆しを示している」と述べる一方で、さらなる支援が必要であると指摘。事業承継やM&Aが地域に根付いた企業を次世代へとつなぐだけでなく、雇用や地域経済の安定を図る基盤となることを改めて強調しました。
出典:「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(中小企業庁)
地域経済における事業承継の意義
事業承継は、単なる経営の存続にとどまらず、地域特有の資源や蓄積されたノウハウを活用し、新たな成長機会を創出する可能性を秘めています。田尻氏は、「中小企業の事業承継は、地域経済の未来を築く鍵となる」と力強く語り、その意義の大きさを改めて訴えました。
M&Aがもたらす成長の実証
続いて、M&Aを実施した中小企業がいかに成長を遂げているかについて具体的なデータが示されました。以下の図を通じて、M&Aを実施した企業は、未実施の企業と比較して、売上高、経常利益、そして労働生産性の向上が顕著であることが明らかになりました。この結果は、M&Aが中小企業の競争力強化と持続的な発展に寄与する有力な手段であることを裏付けています。
出典:「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(中小企業庁)
出典:「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(中小企業庁)
中小企業の事業承継・M&Aを支える多様な支援策
続いて、中小企業の事業承継や引継ぎ(M&A)に関する支援策の現状が紹介されました。具体的には、引継ぎ準備から円滑な引継ぎ、さらには引継ぎ後の経営革新に至るまで、各段階を支援する多様な施策や補助金が用意されていることが示されました。
これらの支援策は、事業承継の成功を促進するだけでなく、後継者や新経営者が革新的な経営を実現し、さらなる成長を目指すための力強い後押しとなっています。
出典:「事業承継・M&Aに関する現状分析と今後の取組の方向性について」(中小企業庁)
これからの地方創生と人口減少問題への対応
「産官学金労言」の総力戦
内閣官房参与の間宮淑夫氏が登壇し、地方創生と人口減少問題への対応には、住民と「産官学金労言」の多様なセクターが一丸となる「総力戦」が不可欠であると強調しました。
「産官学金労言」とは、日本における多様なセクターの連携を表す言葉で、それぞれが以下のような役割を担っています。
- 産(産業):企業や産業界が経済活動の中核を担い、商品やサービスを生み出します。
- 官(官公庁):政府や地方自治体が政策立案や公共サービスを通じて社会基盤を整えます。
- 学(学術・教育機関):大学や研究機関が知識と技術を創出し、社会へと還元します。
- 金(金融機関):銀行や保険会社などが資金面での支援を提供し、経済活動を支えます。
- 労(労働界):労働者や労働組合が雇用環境の改善を通じて労働力の維持に貢献します。
- 言(メディア・言論界):マスメディアが情報提供や世論形成を通じて社会に影響を与えます。
これらが専門性とリソースを持ち寄り、相互に補完し合うことで、地域が直面する複雑な課題を解決する仕組みを構築することが重要です。
地方創生政策の流れと課題解決へのアプローチ
地方創生とは、人口減少や少子高齢化が進む中で、地域の持続可能な発展を目指す取り組みです。日本ではこれまで、日本列島改造論やテクノポリス構想、リゾート法から、現在のデジタル田園都市構想に至るまで、時代に即した政策が展開されてきました。
特に2014年に地方創生担当大臣を務めた石破茂総理は、以下の3点を柱に政策を推進してきました。
- 地方分権の強化:中央依存を減らし、地域の自立を支援。
- 中山間地域の課題解決:過疎地の生活インフラや産業を守る仕組みづくり。
- 地域資源のブランド化と国際化:地域特有の資源を活かし、国内外での価値向上を図る。
石破総理は「地方創生の主役は地域住民自身であり、国の役割はきっかけ作りに過ぎない」と繰り返し強調してきました。
地方再生の成功事例:佐賀県唐津市の「椿プロジェクト」
間宮氏の講演では、地方創生の具体例として佐賀県唐津市の事例が紹介されました。同市の最北端に位置する加唐島では、古来より自生する椿を活用し、椿油を伝統的な手作業で生産してきました。この地域資源を軸に新たな産業が創出され、2016年には化粧品ブランドが誕生。これを契機にフランスのコスメティックバレー名誉会長アルバン・ミュラー氏が注目し、唐津の「椿」を核とした唐津コスメティック構想に発展しました。
この取り組みは、地域の自然資源と伝統を活かしながら、世界市場での競争力を高めた好例です。
地域特性を活かすことの重要性
間宮氏は講演の最後に、「地方創生には唯一の正解や必勝法は存在しない」と述べました。しかし、成功事例は数多くあり、それを単に模倣するのではなく、地域の特性や課題に合わせて適切に修正し、活用することが鍵であると強調しました。
「国の政策はあくまできっかけに過ぎない。その成果をどう引き出すかは、地域や住民の力次第です。」
地方創生の真髄は、地域固有の強みを最大限に活かし、主体的に未来を描く力にあるのです。
事業承継とイノベーション:その地方創生への意義
地方創生につながる「イノベーションの種」を掘り起こす事業承継の可能性
イノベーションハブ理事長であり、一橋大学名誉教授の伊丹敬之氏が登壇し、「事業承継がイノベーションを生み出し、地方創生に貢献する可能性」について語りました。
事業承継の契機として、経営難や後継者不足が多く挙げられます。しかし、こうした困難な状況の中にも、未来の成長を切り拓く「イノベーションの種」が潜んでいると伊丹氏は指摘します。一方で、現経営者がその価値に気づかず、活用できないまま終わってしまうケースも少なくありません。それでも、事業承継を通じてイノベーションを起こす可能性は十分にあり、諦めるべきではないと強調しました。
ラディカルイノベーションとインクリメンタルイノベーション
イノベーションには大きく「ラディカルイノベーション」と「インクリメンタルイノベーション」がありますが、特に後者は多くの中小企業に見られる特性です。その代表的な成功事例として紹介されたのが、「ズゴックとうふ」や「ザクとうふ」で話題を集めた相模屋食料です。同社は、顧客視点のアイデアと生産効率の向上を図ることで、2000年には23億円だった売上を2023年には400億円にまで成長させました。
さらに、2014年ごろからは、経営難に陥った中小の豆腐屋を救済するM&Aを積極的に行い、この取り組みが成長を加速させました。救済型M&Aによる事業承継は、単なる経営再建にとどまらず、地域経済を活性化し、地方創生にもつながることが示されています。
受け継がれる技術が生むイノベーション
成功の鍵となったのは、被承継企業の「黄金時代」に根付く「インクリメンタルイノベーションの種」を見出し、それを活かしたことです。例えば、「京都タンパク」の手ごね技術、「但馬屋食品」の豆乳づくりの技術、「日の出」の堅とうふの寄せ技術といった、それぞれ独自の「癖ある技術」を受け継ぐことで、新たな製品や価値が生まれました。
明るい未来を切り拓く伝統技術
講演の締めくくりとして紹介されたのが、相模屋食料の鳥越社長の言葉です。
「日本の食品産業の先端技術と、豆腐づくりで培った伝統技術を融合させれば、この業界の未来は、誰もが想像するよりもずっと明るい。さらには、地球環境にも良い影響を与えることができる。日本の伝統の技には、それくらいの底力がある。」
事業承継が持つポテンシャルは、単なる経営の引き継ぎを超え、イノベーションを通じて地域や業界の未来を照らす力を秘めています。
まとめ
今回のシンポジウムでは、事業承継とイノベーションが地方創生において果たす役割の重要性が、さまざまな観点から論じられました。中小企業がM&Aや事業承継を通じて地域社会に貢献する成功事例からは、適切な施策や連携が持つ大きな可能性を実感することができました。また、住民と産官学金労言の連携が、地域の課題解決や持続可能な発展の鍵であることが改めて示されました。
イノベーションは、新たな成長や価値を創出する力を秘めており、それは単に都市部だけでなく地方にも大きな恩恵をもたらします。特に、事業承継における「イノベーションの種」を発見し、それを着実に育てていくことは、地域経済の活性化と持続可能性の確保につながる重要な取り組みといえるでしょう。
一方で、成功を実現するには、地域特性や課題に応じた柔軟な対応が不可欠です。模範となる事例は多く存在しますが、それを単に模倣するのではなく、各地域の特性に合わせた工夫が必要です。そのためには、地域の中核を担う中小企業が、事業承継やM&Aを通じて新たな価値を生み出す支援が求められています。
こうした事業承継やイノベーションに関する取り組みは、地域のみならず日本全体の未来を明るくするものです。私どもも、この分野における専門的な知見を生かし、さまざまな支援を行っております。これからも中小企業の挑戦を支えることで、より多くの可能性を広げてまいりたいと考えています。
事業承継が持つ可能性を最大限に引き出し、イノベーションを地域に根付かせる努力を続けることが、地方創生の本質であると言えるでしょう。この理念を胸に、関わるすべての方々とともに歩みを進めてまいりたいと思います。
事業承継関連の補助金申請の道のりは複雑に思えるかもしれませんが、地方創生に向けた「きっかけ作り」となることを心から願っています。どんなに小さな疑問や不安も、専門家が解決の手助けをいたします。補助金を通じて、地方創生を目指しましょう!
今回は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
HKSパートナー 博士(工学)、中小企業診断士、認定経営革新等支援機関
ひとこと:補助金という言葉は聞いたことあるかもしれませんが、具体的にどう申請したらよいのか、どんな点に注意したらよいのか、まったく見当がつかない方も多くいらっしゃるかと思います。そんな方のために丁寧な説明を心がけたいと思います。