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事業再構築補助金:採択された7つの事例に学ぶ
事業再構築補助金の採択事例から学ぶ意味とは
事業再構築補助金は今年令和3年に初めて公募が行われた補助金です。第1回公募はその年の5月7日に申請受付が締め切られ、採択結果が発表されたのが6月18日でした。
採択結果は、次の通りでした。
【申請者数】 22,231者(要件を満たした申請件数19,239者)
【採択決定】 8,016者(採択率36.1%)
その後、中小企業庁のホームページでは第1回公募申請の中身について様々なデータを公表していることをご存じでしょうか?
例えば、日本標準産業分類毎における「事業計画の概要」などですが、その1つに『採択事例紹介』があります。
これは、採択された8,016件の中から中小企業庁が何らかの意図を持って7件の事例を選び出し、特に解説を付けることなく「事業計画書」を公開するというものです。
「ここから何が読み取れるかは君たち次第だ!」みたいなコーナーになっているわけですが、今回は、この採択事例7件の「事業計画書」を比較したり共通点を見出すことで「採択されやすい事業計画書の書き方とは?」というテーマで取り上げてみたいと思います。
第1回?古いよね・・・について
「そんな古い事例から得るものなんかあるのか?」
と思いませんか?当然の疑問です。
ただ考えてみると、鳴り物入りで登場した事業再構築補助金ですから、この補助金に対する政府や事務局の想いは、初期も初期である第1回公募で採択された事例にこそ、色濃く表れているのではないでしょうか。
その上で、「こういう事業計画書を通したい(採択したい)んだ!」という事例を厳選してわざわざ公開したと考えると、学び得るものの大きさが想像頂けるかと思います。
事業計画書の作成はWordに限らず
今回ご紹介する7件の内、6件は「補助金申請でお馴染みのアプリ『Word』」で作成されたものですが、実は1件だけ、一目で『PowerPoint』で作成されたと分かる事業計画書がありました。
その1~3ページ目までを下記に貼り付けます。
これは、中小企業庁が「採択事例」として公開したものですので、事業再構築補助金申請で提出する事業計画書は、PowerPoint(いわゆる「パワポ」)で作られたスライド形式であっても、申請上で全く問題ないということが示された形です。
ただし、提出する際はPDF形式に変換することをお忘れなく!(これはWordでも同じです)。
もちろん、公募要領にも「様式はWord文書に限定する」などとは書かれておりません。
事業再構築補助金 公募要領
※取り上げた公募要領は最新の募集ではないためご注意下さい!
公募要領29ページの「表1:添付書類① 事業計画書(29~30ページ参照)【**】」に下記の記載があります
※ 最大15ページ(補助金額1,500万円以下の場合は10ページ以内)で作成してください。
※ Word 等で作成の上、PDF 形式に変換した電子ファイルを電子申請システムの所定の場所に添付してください(様式自由)。
採択事例として公開されている目的が、このように書けば採択されるんだという基準の目安を知ってもらうことだとすると、パワポで事業計画を作成する際の参考になります。
1ページ目は、事業概要ですがまさにパワポ向きです。皆様も自社の概要をパワポでプレゼンしたことがおありかと思います。申請のための事業計画書として見てもプレゼン資料の事業概要と同様に直感的で読み易いです。
2ページ目は、クロス分析(または「クロスSWOT分析」と言います)の表と、そこから導き出される事業再構築方針です。元々、フレームワーク自体がマトリックス表であるので、Wordに画像を添付するより、パワポが読み易いのは勿論です。
3ページ目は、事業再構築方針への該当関連性、該当理由の説明です。これも、Wordファイルであっても表形式で説明される方が多いでしょうから、パワポ向きです。
また、「ここは文章でしっかり説明したい」という内容もあるかと思います。例えばこの資料の中で最も文字や文書が多めのページがこちらですが、Wordファイルに比べて「やはり読み易い」と思いました。
もちろん、パワポの場合も10ページ、15ページというページ数の指定は一緒です(本事例は15ページでした)。
以上のように、視覚的な説明を行いたい場合や、普段の業務でパワポを使い慣れている方はパワポでの申請を検討してもよいかもしれません。
事業計画書は見た目が大事
先述した、パワポで作成するスライド形式の事業計画書ですが、Wordと比較した場合のメリットは「見やすさ」ということで間違いないでしょう。
ではWordで作成する場合はどうか?この場合も、やはり少しでも見やすいよう、見た目を良くする工夫が必要です。
皆様も、事業再構築補助金を申請しようとなって事業計画書を作成される際には、次の点は気を付けると思います。
・1ページに1つ以上の画像もしくは図表を配置する
・図表はシンプルかつ分かり易く作る
・市場動向などは具体的なグラフで説得力を持たせる(引用元を明示する)
・大見出し、中見出し、小見出しを使い分けて見やすさを高める
・色を多用し過ぎるとがまとまりが無くなるので色の数を絞る
・英数字の全角半角や文字の級数は規則的に整える
…等々、色々あると思います。そして、今回それ以外で注目したのが「枠線」です。
今回公開されたWord形式6件の内、4件が「枠線」を使っていました。この4件の1ページ目をまとめて見るとこのような形です。
一番読み易いのは右上の「事例No.3」でした。全ページに渡って、大見出しは青く塗った四角形で囲い、小見出しは左側の枠内に切り出しているため、審査員にとって「いま何について読んでいるのか」がより分かり易くなっています。
他の3者も「大見出しが切り替わる際に枠線で区切る」など、枠線をうまく使って見やすさを高めています。
これがあるのとないのとでは、結構な差があります。例えば次の画像は枠線がない事例(これも採択された事例の1つ)ですが、見出し番号が多数あって非常に見づらいことが分かります。
また外側の枠線も効果が大きそうです。上の画像と比較してみると、下の画像では枠線が無いためボヤっとして感じます。
審査員にじっくり読む時間があればこうした所で差は出ないはずですが、審査員はかなりの件数を短期間に審査しなければならない状況にあることが多いと聞きます。
だとすると申請側は「読みにくい → 正しく伝わりづらい」と感じさせてしまうリスクは避けるべきでしょう。
例えば、不採択となった場合は事務局へ不採択理由を問い合わせできますが、その回答として「〇〇の記述がなく説得力が弱い」とあったものの、えっ?ここにしっかり書いていますけど、、、ということがあったとします。
この場合は、申請者側が伝わりやすいように書くべきだったということになってしまいます。
事業計画書の「構成」について
審査の結果、採択されるか、されないかの差の一つに、「見やすくするための工夫」があるのではないか?ということを書いてきました。
そこで次は、見た目ではなく中身に差がないのか?を検証するため、採択事例の中から2つを比較して見てみました。
同じ「新分野展開」である2件の大見出しと小見出しから、構成を比較したのが次の画像です。
多少、構成の粒度に違いがあります。例えば、表上では分かりませんが、右の事例も「当社の事業状況」の中でSWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析を記載しています。
ということで、どちらもほぼ同じ内容で構成されていることが分かります。
<両社の違いについて>
一つあるとすると、左の事例は「ホテル・飲食事業者によるワーケーション関連事業」の計画であるため、P13~P15において「別紙」として改装後の仕上がりイメージ画像が多数紹介されています。
これに対し、右の事例では「補助事業の具体的取り組み内容」が手厚く書かれています。特に、事業再構築の類型が「新分野展開」に該当する理由や、卒業枠の要件を満たす根拠、政策点による加点の根拠が丁寧に書かれており、審査員へ訴求していました。
このどちらも審査員に対する良いアピールとなっており、採択に結びつくアレンジとなっているのではないかと考えます。
では、なぜどちらも基本的な構成が似ているのか?
これは当然と言えば当然ですが、申請者は基本的に「公募要領」に基づいて事業計画書を作成するからです。
その上で、より採択率を高めるため、審査員に強くアピールするために構成の順序を組み替えたり、上記の様に特定の内容に重み付けたりといったアレンジを行うため、構成の中身が大きく変わりません。
逆に言えば、公募要領に記載された要素を押さえた事業計画書でないと、審査員が読んだ際に物足りなさや伝わりにくさを感じさせてしまうという、リスクが高まります。
申請する際は、事務局側が「審査する上で書いてほしいこと、書かれていることで加点しやすくなること」を積極的に書く。今回、採用7事例を比較して、改めてその大切さが確認できました。
そうすることで、「これが書かれていないから点が付けにくい、これがどこに書いてあるか分からなかった」という、申請者にとっては絶対に起こってほしくないリスクを徹底的に回避できれば、採択される確率が上がると考えます。
目次も、あり?
今回公開された事例の中で、「目次」が記載された事例がありました。目次があったのは7事例中、1事例でした。
こちらの目次を見ても、上で比較してみた2つの事例と基本的な構成が変わらないことが分かります。
なお、目次があったのは1事例だけであり、目次を付ければ良いという事ではなさそうです。実際に本事例の事業計画書は目次を抜きにしても非常に読み易く、要素も漏れなく十分であり、説得力が高い計画書だと思います。
ところでこの事例、1つだけ他の6事例のどれとも違うことがありました。これは本当にこの事例だけでした。それは何でしょうか。
実は、ページ数が、公募要領における「制約」である15ページを超えています。目次に、あってはならない筈の「16ページ」が存在しています。
では目次は1ページに数えないのか?
・・・ということはないと思います。1ページ目は目次だけでなく本文も書かれているので、審査員によっては「根本的なルール違反」として厳しく取られかねないため、リスクが高そうです。
8,016件の中から厳選された7事例の内、1事例がそうだったからとはいえ、やはり従うべきは採用事例よりも公募要領です。
ちなみに本事例ですが、最終ページである「幻の16ページ目」が「採点項目のまとめ」となっています。これは審査員に対する強力なアピールになりそうなため、ご紹介します。
私は今後、これを取り入れたいと思いました。皆様もそういった視点で7事例をご覧になってはいかがでしょうか?(その後、10事例に増えました)
まとめ
今回は、中小企業庁が公表した「採択された7事例の事業計画書」を比較して、差異となっている要素や共通点を洗い出しながら、採択された事例のポイントを確認しました。
今回確認してきました通り、やはり重要なポイントは
「審査員の立場で見た時に読みやすいこと」
「書く必要があることを間違いなく書いてあると審査員へ伝えること」
「基本的な構成要素を漏らさず、効果的な要素は見出しを付けて切り出すなどして強調すること」
であるようです。
もし 事業再構築補助金に申請する際には、今回の内容に加えて、前回記事の「よくある申請時の不備事例紹介」もご覧いただき、採択率を高める工夫をし尽くしていただけることを願っております。
補助金の活用をご検討の際は私達「HKS補助金活用支援会」までお気軽にご相談下さい。
最後までお読み下さり誠にありがとうございます。
HKSパートナー、中小企業診断士です。
補助金をできるだけ分かりやすくご紹介したり、事業者様のお手伝いをしたりと幅広く活動しながらも、日々勉強の毎日です。
どこかでご縁を頂けましたら幸いです。