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交付決定取消と補助金返還が公表!? 改めて理解しておきたい原則

2022年12月28日、事業再構築補助金事務局の公式ホームページに、背筋が伸びるような文書が公表されました。タイトルは「個別事業者に対する交付決定の一部取り消しと返還命令について」。A4片面1枚のPDFで、情報量はあっさりとしていますが、装飾のない文章が、かえって厳かな雰囲気を醸し出しています。

お正月のおめでたい空気が抜けきらない時期には重いテーマですが、本当に補助金を返還する事態となってしまったら、元も子もありません。今日はこちらの文書の内容を確認するとともに、改めて事業再構築補助金の交付決定取消し・返還命令がどのような場合に発生するのか、おさらいしていきたいと思います。

公表された文書の内容

公表された文書には、以下のように記載されています。

■事業再構築補助金 個別事業者に対する交付決定の一部取り消しと返還命令について

事業再構築補助金事業において、個別事業者が実態を伴わない経費を計上することによ り、補助金を不適切に受給していたことが判明しました。 このため、当該事業者に対し、下記のとおり交付決定の一部を取り消すとともに、補助 金の一部返還、及び加算金を請求する措置を講じましたので公表します。

交付決定の一部を取り消した日 2022年12月23日
事業者所在地 静岡県
交付決定の一部を取り消した理由 計上されていた経費の一部が、実態を伴わないものであることを確認したため。

注目すべきポイントは3つあります。

第1に、交付決定の「一部」を取り消しと記載されている点です。「一部」という言葉が1申請に対する金額を指すのか、複数申請の内の1件を指すのか明記されていませんが、該当する事業者の全件・全額が取り消されたわけではないようです。

第2に、補助金の一部返還を求めるだけではなく、「加算金を請求」されている点です。実態を伴わない経費を計上した場合、返金のみならず、追加で金銭の支払いを命じられることが分かります。

最後に、取消し理由です。計上された経費の一部が「実態」を伴わないことが、取消しの理由とされています。「実態」という言葉が何を指すのか定かではありませんが、補助事業の一部について、虚偽申請や目的外利用、受領した補助金の第三者を分配しているケースなどが考えられます。

交付決定取消しや補助金返還に関する原則

そもそも事業再構築補助金において、交付決定の取り消しや補助金の返還が命じられるのは、どのような場合なのでしょうか。原則は、交付規程22条に記載されています。

■事業再構築補助金 交付規程

(交付決定の取消し等)
第22条 中小機構は、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請があった場合又は次の各号のいずれかに該当する場合には、第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。
(1)補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合
(2)補助事業者が、補助金を補助事業以外の用途に使用した場合
(3)補助事業者が、補助事業に関して不正、怠慢、その他不適当な行為をした場合
(4)補助事業者が、交付の決定後生じた事情の変更等により、補助事業の全部又は一部を継続する必要がなくなった場合
(5)補助事業者が、申請内容の虚偽、本補助金を活用して取り組む事業に対する国(独立行政法人等を含む)が助成するほかの制度(補助金、委託金等)との重複受給等が判明した場合
(6)補助事業者が、大規模賃金引上枠の応募申請時点で、応募申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明していないことが判明した場合
(7)補助事業者が、補助事業実施期間に限って、資本金の減資や従業員数の削減を行い、補助事業実施期間終了後に再度、資本金の増資や従業員数の増員を行うなど、専ら本事業の対象事業者となることを目的として、資本金、従業員数、株式保有割合等を変更していると認められた場合
(8)補助事業者が、補助事業実施期間の終了までに補助事業を完了しなかった場合
(9)補助事業者が、第17条第1項に定める期限内に実績報告書を提出しなかった場合
(10)補助事業者が、第25条第1項に定める事業化状況の報告を行わなかった場合
(11)補助事業者が、別紙3「反社会的勢力排除に関する誓約事項」に違反した場合
2(略)
3 中小機構は、前項の返還を命ずる場合には、第1項第4号、第5号及び第6号に規定する場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとする。

下線部がポイントです。

加算金の支払いは「第4号、第5号及び第6号に規定する場合を除き」とあるため、今回公表された事業者は、この3つ以外の条項に違反したことが分かります。また、受領の日から納付の日までの期間に、年利10.95%という相応の金利を上乗せしなければならないことが分かります。

ちなみに、「補助金の返還期限は、当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない 場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割 合で計算した延滞金を徴するものとする。」といういわゆる遅延損害金に該当する規定も存在します。

さらに、冒頭の通知と同月(2022年12月)に公表された第8回公募要領1.1版には、太字・下線で強調して、以下の文言が記載されています。

■事業再構築補助金 公募要領

補助金の申請にあたって、「虚偽の申請による不正受給」、「補助金の目的外利用」や「補助金受給額を不当に釣り上げ、関係者へ報酬を配賦する」といった不正な行為が判明した場合は、交付規程に基づき交付決定取消となるだけでなく、補助金交付済みの場合、加算金を課した上で当該補助金の返還を求めます。
交付決定の取消しを受けた者は、不正内容の公表等を受けることや「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」第29条に基づき、5年以下の懲役若しくは 100万円以下の罰金または両方に処せられる可能性があります。

「虚偽の申請による不正受給」「補助金の目的外利用」「補助金受給額を不当に釣り上げ、関係者へ報酬を配賦する」という3つを例示していることから、補助金事務局はこれらのケースを強く意識していることが分かります。先に述べた交付規程の加算金対象にも該当するため、今回も同様の事例が発生したのかもしれません。

その他の交付決定取消し・補助金返還事由

今回のケースは、加算金の支払いを伴う悪質なケースと事務局が判断して公表に踏み切ったものと思われます。
ただ、補助事業を真面目に遂行し、事業化状況の報告等を行った場合においても、要件を満たせなかったことで補助金の一部を返還することとなるケースがあります。公募要領には事業場内最低賃金と従業員数について具体的に明記されており、特に注意が必要です。

■事業再構築補助金 公募要領

(5)【賃金引上要件】について(17ページ)
応募申請にあたり、以下の点に留意してください。
ア.補助事業実施期間の終了時点を含む事業年度の前年度の終了月の事業場内最低賃金を基準とします。ただし、当該事業場内最低賃金が、申請時点の事業場内最低賃金を下回る場合には、申請時点の事業場内最低賃金を基準とします。
イ.申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員等に表明することが必要です。交付後に表明していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求めます。 ウ.予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引き上げることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります

(6)【従業員増員要件】について
応募申請にあたり、以下の点に留意してください。
ア.略
イ.略
ウ.予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく、事業計画期間終了時点において、従業員数を年率平均1.5%以上(初年度は1.0%以上)増加させることが出来なかった場合、通常枠の従業員規模毎の補助上限額との差額分について補助金を返還する必要があります

なお、付加価値額増加要件〔事業終了後3~5年で、付加価値額の年率平均3.0%(グリーン成長枠については5.0%)以上、又は従業員一人当たり付加価値額の年率平均3.0%(グリーン成長枠については5.0%)以上の増加〕については、未達の場合における返還要否について、公募要領に明記されていません。この点の対応は、事業化報告が進捗してきた際、再度検討・決定されることになると思われます。

おわりに

公表文書を皮切りに、交付決定の取り消しや補助金返還が求められるケースを見てきました。誠実に補助事業を実行する場合においても、要件や義務をうっかり見落とすと交付決定取消しや補助金返還に繋がりうることがお分かりいただけたかと思います。

事業再構築補助金は、認定経営革新等支援機関の協力が申請の必須要件です。今回取消し対象となった事業者も支援機関のサポートを受けていたはずです。優良な支援機関選びも、補助金活用における重要なステップになります。事業者様におかれましては、実績等を勘案の上、最も信頼できるサポーターをお選び下さい。

HKSは2023年も、中小事業者様の支援のために走り続けます。本年が事業者の皆様にとって素晴らしい年となることを、心よりお祈り申し上げます。

 

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