HKSブログ

インバウンド受入環境整備高度化事業とは? ~地域の観光DX・GXを後押しする補助金~

今回は、観光庁が実施する「インバウンド受入環境整備高度化事業」をご紹介します。

コロナ禍を経て、訪日外国人旅行者(インバウンド)※以下、「インバウンド」といいます。の回復が進んでいます。しかし、観光地で課題となっているのが「受入環境の質」です。言語の壁、通信環境の不備、トイレや動線の問題など、“ちょっとした不便さ”が滞在満足度を左右します。

観光庁が実施する「インバウンド受入環境整備高度化事業」は、そうした課題を解決するための補助制度です。地域全体の観光動線や滞在環境を改善し、外国人旅行者が快適に移動・消費・宿泊できる環境づくりを支援します。

この記事では、制度の目的や対象事業、補助率、採択のポイント、そして今後の備え方までを詳しく解説します。

今回お伝えしたいポイント

1.制度の概要

2.対象者・対象事業の具体例

3.三次公募のスケジュールと申請方法

4.補助金額・補助率・補助対象経費

5.採択のための評価ポイント

6.注意点と次回公募に向けた準備のポイント

「インバウンド受入環境整備高度化事業」の概要

参照:観光庁サイト

インバウンド受入環境整備高度化事業は、観光庁が実施する補助金事業で、訪日外国人旅行者の周遊促進・地方誘客・消費拡大を目的としています。

単なる施設整備ではなく、「面的整備(エリア全体の整備)」と「拠点機能強化」を一体的に進めることを重視している点が特徴です。

駅・観光地・商店街・宿泊施設などを一つの動線として捉え、外国人旅行者がストレスなく移動・滞在・消費できる環境を整えることが求められています。

観光庁はこの制度を通じて、「地域全体でおもてなしの質を底上げする観光DX・GXの推進」を目指しています。

対象となる事業者・取組内容

1.対象となる事業者

申請できるのは、以下のような主体です。

  • 市町村・都道府県
  • 観光地域づくり法人(DMO)
  • 民間事業者(宿泊業、交通事業者、商業施設運営者など)

民間事業者(宿泊業・交通事業者・商業施設など)は、これらの主体が策定する「高度化計画」に位置付けられた実施者として参画する形になります。

したがって、民間単独での申請はできません。必ず自治体またはDMOと連携して計画に組み込まれる必要があります。

高度化計画とは?

高度化計画とは、地域が一体となって観光環境を整備するための方針・計画をまとめたものです。

観光庁の応募要領(令和7年度(2025年度)第三次公募)では次のように明記されています。

「地域全体でインバウンド受入環境の高度化を図るための整備方針・実施内容をとりまとめた計画書」

この計画を自治体またはDMOが策定し、観光庁の承認を受けることで、その中に位置付けられた事業が補助対象となります。
つまり、個別の店舗や施設が補助を受けるには、「自分の取組がこの計画書に明記されていること」が条件になります。

2.対象となる取組内容

本事業では、地域の課題や特性に応じてさまざまな取組が対象となります。
代表的なものを紹介します。

分野 主な内容
多言語対応 案内板やサイネージの多言語化、観光案内所の改修、翻訳アプリ連携
ICT整備 無料Wi-Fi整備、スマート案内端末、AI翻訳サポート機器
キャッシュレス対応 QR決済・クレジット端末導入、外国人向け決済サービスとの連携
交通・モビリティ 電動カート、EV充電器、MaaS導入、周遊シャトル整備
トイレ整備 洋式化、高機能トイレ、誰でもトイレ設置
ユニバーサルデザイン 段差解消、視覚・聴覚障害者対応サイン、ベビーカー対応通路
拠点機能強化 観光案内所リニューアル、待合空間整備、デジタル掲示システム導入
賑わい創出 夜間照明、景観整備、休憩スペース・広場活用

これらの取組を複数組み合わせて申請することも可能です。

特に「面的整備」(例:駅→観光地→宿泊地の動線)と「拠点機能強化」を同時に行う提案は、審査で高く評価される傾向があります。

公募スケジュールと申請方法

1.第三次公募スケジュール

令和7年度(2025年)度は、現在第三次公募が実施されています。
最新の第三次公募では以下のような日程で募集が行われています。

  • 公募期間:2025年9月16日(火)〜10月31日(金)17:00必着
  • 提出先:地方運輸局・観光部など、地域ごとに指定あり
  • 提出方法:郵送または持参(電子申請は対象外)

2.提出書類

  • 高度化計画書
  • 計画概要(PowerPoint様式)
  • 要望書(様式1〜3)
  • 事業費内訳書・見積書 など

※予算上限に達した場合、早期締切となる場合があります。

補助率と補助金額の目安

本事業では、補助率(1/2、1/3など)は明示されていますが、補助金額(上限額)については公募要領上で一律の定めがありません。
観光庁は、地域や事業規模に応じて個別に判断する仕組みを採用しています。

そのため、ここで紹介する補助金額は、観光庁の過去公募要領・採択事例・各地方運輸局の公募説明資料をもとにした参考水準(目安)です。

区分 補助率 補助金額の目安 想定される事業規模
面的整備事業(自治体・DMO主体) 1/2 約5,000万円〜1億円前後 周遊ルート、サイン・案内整備など
拠点機能強化事業(観光案内所・駅など) 1/3 約3,000万〜5,000万円 トイレ改修、Wi-Fi、キャッシュレス端末
民間事業者の取組(DMO計画内) 1/3 約300万〜1,000万円 翻訳端末、サイネージ、キャッシュレス対応
広域モデル・先進事例 1/2 最大2億円程度 広域ルート整備+デジタル連携など

対象経費には、建築工事費、設備導入費、通信機器費、システム開発費、設計費、外注費などが含まれます。
単なる備品購入や装飾のみでは対象外になるため、“観光地としての環境整備・高度化”に資することが求められます。

採択されるための評価ポイント

採択審査では、次の観点が重視されます。

  • 必要性・課題解決性
    地域の課題が明確で、取組が合理的か。データや現地調査に基づく提案が望ましい。
  • 実現性と一体性
    単独の施設整備ではなく、動線全体・エリア全体を意識した構成になっているか。
  • 効果の具体性
    整備後の効果(訪日客数・滞在時間・満足度等)を定量的に示せるか。
  • コストの妥当性
    見積根拠が明確で、複数比較による費用対効果が示されているか。
  • 持続性・維持管理体制
    補助期間終了後も維持・運用できる体制を整えているか。
  • 地域連携・波及効果
    自治体・DMO・事業者が協働し、地域全体に波及効果が見込めるか。
  • 先進性・モデル性
    AI、IoT、MaaSなどの先端技術を活用した事例は特に高評価。

 

観光庁補助金の採択事例から見える評価基準とは?

過去の観光庁の補助金採択事例(採択結果一覧(過去1年分))から、共通して見られる傾向を挙げると、以下の3点が極めて重要です。
※本事業個別の採択事例ではありません。

1.課題の明確化 × 解決策の一貫性
 (例)「外国人観光客が多いがトイレが少ない」→「高機能トイレを設置+案内標識を英語化」

2.デジタル活用・GX視点の加点効果
 観光庁は「観光DX」「グリーントランスフォーメーション(GX)」を重点テーマとしており、AI・IoT・EV充電設備・再エネ導入などがあると採択率が高まる傾向にあります。

3.地域全体での連携体制の提示
 「自治体+DMO+民間+交通+宿泊」など複数機関による構成は審査で高く評価される傾向にあります。

注意点と次回公募に向けた準備のポイント

1.注意点

  • 交付決定前の契約・発注は対象外。

  • 見積書は原則2社以上から取得し、比較表を添付。

  • 旧様式での提出は無効になる場合がある。

  • 写真・図面など補足資料を添付し、整備内容を視覚化する。

  • 補助事業終了後の運用計画・維持費負担を明記する。

  • 予算が上限に達すると、締切前でも受付終了することがある。

2.次回公募に向けた準備のポイント

10/31迄の公募締切に間に合わない場合でも、今から準備を進めておくことが次回の採択に直結します。観光庁は本事業を複数年継続して実施する方針を示しており、以下の準備が効果的です。

  • 自治体やDMOと連携して計画策定の意向を伝える

  • 地域課題(案内・トイレ・通信・交通など)をデータ化

  • 補助対象経費に該当する見積を早期に取得

  • KPI(来訪者数、滞在時間、外国人比率など)を設定

  • DX・GX技術を取り入れた先進的取組を検討

まとめ

「インバウンド受入環境整備高度化事業」は、単なる設備投資ではなく、地域全体の観光品質を向上させる戦略的な補助金です。地域の魅力を「外国人目線で再設計」し、観光DX・GXの推進とともに、持続可能な観光地域づくりを実現するチャンスといえます。今後も継続的な公募が見込まれるため、早期の情報収集と関係機関との連携が成功の鍵となります。

HKSでは専門家による申請サポート支援を行っています。補助金申請サポートご希望の方はこちらまでお申込ください。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

関連記事

コメントは利用できません。