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事業再構築補助金はこれからどうなるのか?
はじめに
既にご存じの方もおられると思いますが、事業再構築補助金のサイトに、2023年12月8日付で次の2件のニュースがアップされました。
第11回の補助金交付候補者の採択発表は、令和5年12月下旬~令和6年1月上旬頃を予定しておりましたが、審査に時間を要しているため、令和6年1月下旬~2月上旬頃へ延期させていただきます。補助金交付候補者の採択発表が遅れますことをお詫び申し上げます。
本事業は、11月12日(日)に内閣官房行政改革推進本部事務局が実施した「令和5年度秋の年次公開検証(「秋のレビュー」)」において取り上げられ、下記リンク先のとおり外部有識者によるとりまとめが行われております。
第12回以降の公募については、ご指摘を踏まえた見直しを行った上で公募を再開する予定です。
引き続き、事業再構築補助金については、事業状況の検証・分析等を通じた効果測定を行い、中小企業等事業再構築促進基金の政策目標の達成に向けて、適切に実施していきます。
一件目は10月6日に申請を締め切った第11回公募の採択発表が1か月程度遅れる見込みであること、二件目は次回第12回以降については行政事業レビューでの指摘を踏まえた見直しを行った上で公募を再開する、というお知らせです。
今回のブログでは、ここ数か月の事業再構築補助金を巡る議論を分かりやすく整理して、これからどうなるのかを探ってみたいと思います。ぜひ最後までお読み下さい。
今回お伝えしたいポイント
事業再構築補助金についての
1.財務省・財政制度分科会(10月開催)の論点
2.行政改革推進会議(11月開催)の論点
3.今後の方向性
財務省の指摘:新型コロナ対応の補助金は見直すべき
事業再構築補助金は、2021年3月に第1回の公募が開始され約2年が経過しました。当時の補助事業の目的は「新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中で、ウィズコロナ・ポストコロナの時代の経済社会の変化に対応するための中小企業の事業再構築の支援」となっており、コロナ禍における中小企業支援の一環として行われたものでした。
今年(2023年)に入り新型コロナも5類に移行しましたが、10月11日に開催された財務省の財政制度分科会の中で、財務省は「コロナ対応のための補助金(例:事業再構築補助金)や資金繰り支援については、事業者の状況を見きわめながら不断に見直し、早期に中小企業対策費全体を正常化(筆者注:要するに”削減”)する必要」があるという方針を示しました。
特に事業再構築補助金については、下記のような指摘がされています。
- 令和2年度以降累計で2.4兆円と大きな予算が割り当てられている
- 最近は申請件数が減少: 第1回~第5回は毎回の申請件数が2万件前後だったのが、最近の第9回、第10回は1万件前後に留まっている
- 本来の補助事業の目的に合致していない事業も多数採択されている可能性があり、その効果に疑問が呈せられている
- 強みが異なるはずの複数の事業者がフルーツサンド販売店の展開という
全く同内容の計画により採択されている
- 自販機や無人販売店の急増の要因となっているなどの指摘がある
- 第10回公募の採択案件約5200件には、「ゴルフ」や「エステ」、
「サウナ」に関するものが多数含まれている
この分科会での議論がニュースになったことはご記憶の方も多いかと思います。
当ブログでも以前、下記のように取り上げました。
大半の事業者様が真摯に事業再構築に取り組んでいる中で、残念ながらこの財務省の会議をきっかけにして事業再構築補助金が注目を浴びてしまったということは否めません。
行政改革推進会議の指摘:審査やモニタリングの仕組みが不十分、基金としての必要性が不明
続いて11月12日に行政改革推進本部の行政事業レビュー”秋のレビュー(秋の年次公開検証)”でも事業再構築補助金が取り上げられました。このブログの冒頭にお示しした第12回以降の見直しに関するものは、ここでの指摘を受けたものです。
ちなみにこのレビューはインターネット配信され、アーカイブも見ることができます。大学教授など有識者(評価者)の方々から主管の経済産業省・中小企業庁に対してかなり厳しい意見が出されていますので、ご興味のある方はぜひご覧下さい。
ここでは紙面も限られていますので、評価者による結論”取りまとめ”について解説していきたいと思います。
行政事業レビュー 取りまとめ
① 新型コロナ対策としての役割は終わりつつあるので、基金のうちそれにかかる部分は廃止し、もしくは抜本的に事業を構築し直すべき。
② 申請書・財務諸表の精査、四半期ごとのモニタリングといった仕組みが確立されない限り新規採択は一旦停止すべきであり、それができない場合は基金として継続する必要は認められないため、国庫返納して通常の予算措置とすべき。
③ 審査の厳格化とデータの収集の厳格化については、引き続き十分な検討が必要である。
*①②③は筆者が便宜上付加したものです
① 新型コロナ対策としての役割は終わりつつあるので、基金のうちそれにかかる部分は廃止し、もしくは抜本的に事業を構築し直すべき。
この点は、財務省財政制度分科会の論点と共通と捉えて良いでしょう。新型コロナが5類に移管した現在、コロナ対策としての必要性は薄れたため、補助事業の目的そのものを見直す必要があるということです。
② 申請書・財務諸表の精査、四半期ごとのモニタリングといった仕組みが確立されない限り新規採択は一旦停止すべきであり、それができない場合は基金として継続する必要は認められないため、国庫返納して通常の予算措置とすべき。
まず前半の「申請書・財務諸表の精査、四半期ごとのモニタリングといった仕組みの確立」ですが、この点については各評価者の方々から色々と意見が出されました。
特に採択後について、各社の事業計画に対して補助事業が順調に進んでいるのか、財務諸表などのデータを使って定期的にモニタリングすべき、という点が強調されていました。
現在は、補助事業終了後5年間、毎年「事業化状況・知的財産権報告書」を提出することになっていますが、今後は補助事業の効果測定をより厳密に求められることになる可能性が高いと思われます。更に、場合によっては補助事業実施中も含めて何らかの進捗報告が求められることになると思われます。
また、後半の「基金として継続する必要は認められないため、国庫返納して通常の予算措置とすべき」については少し前置きの説明が必要かと思います。
他の多くの補助金は年度予算の中から使われるのですが、事業再構築補助金はそれとは異なり「中小企業等事業再構築促進基金」という”基金”として中小企業基盤整備機構が運用しています。
これは、下記の概念図のように、国の予算から交付された資金を基金としてプールして、複数年度にわたって支出をする仕組みです。
事業再構築補助金は、全体の金額規模が大きいことや当初はコロナ禍で迅速に対応することが求められていたことなどから、外部機関に運営を任せるために基金という形を取ったのではないかと思われます。一方で、このように外部団体が資金をプールすることにより、効率的に国費が利用されているのかが見えにくくなるという問題点も指摘されているというわけです。
「国庫返納して通常の予算措置とすべき」という表現をもう少しわかりやすく言うと、「基金方式は取りやめて残金は国庫に戻し、今後は他の補助金と同じように毎年度の予算で運営すべき」という意味になります。
基金事業の概念図(財務省資料より抜粋)
要するに、補助金としての透明性を改善できないのであれば現在の基金方式での継続は認められない、というのが今回のレビューの結論になります。評価チームの座長である太田康広 慶應義塾大学教授は「事業再構築補助金は、本来であれば廃止とすべき事業である」と厳しい発言をされていました。
③ 審査の厳格化とデータの収集の厳格化については、引き続き十分な検討が必要である。
この点は上記②とも共通しますが、事業者からPDFフォーマットで提出されている財務諸表などを電子化して、極力人手を掛けずにモニタリングを実施できるような体制を構築すべき、という意見です。また、審査やモニタリングを外注するのではなく経済産業省・中小企業庁が主体的に関与すべき、というコメントもありました。
事業再構築補助金の今後
今まで見てきたように、事業再構築補助金はその目的や運営方法など、全面的な見直しを迫られているのが現状です。
第11回の採択発表が1か月程度遅れているのは、より厳密な審査を実施しているためと考えられます。それにより、今まで50%程度だった採択率にも影響を及ぼす可能性もあります。
また、第12回以降については今回の行政事業レビューを踏まえて公募要領や交付規定を含めて見直しを掛けている可能性が高いと思われます。
なお、11月28日付の日刊工業新聞に「企業庁、「事業再構築補助金」制度見直し 支援枠を3枠に集約」という記事が掲載されました。ポイントは以下の通りです。
- 申請枠は6枠から3枠へ集約(「成長枠、グリーン成長枠、産業構造転換枠」が「成長分野進出枠」の1つに集約、「物価高騰対策・回復再生応援枠、最低賃金枠」が「コロナ回復加速化枠」の1つに集約、サプライチェーン強靭化枠は継続)
- 事業計画の審査にAIを活用し、計画書の使い回しの防止や、「ゴルフ」など特定事業申請が集中したらAIで検知して審査を厳格化
- 事前着手制度は撤廃
この記事の正確度については分かりませんが、経済産業省・中小企業庁としては、アフターコロナにおける中小企業の事業再生や事業転換を促進するため、今後も事業再構築補助金を継続していくという意思を示したものだと思います。
記事の中では交付後の見直しについては触れられていませんが、審査やモニタリングを必要以上に厳格化してしまった結果、事業者様にとって使いにくい補助金になってしまっては意味がありません。
補助金の利用者(事業者)、出資者(国)、負担者(国民)の”三方良し”となるような制度設計・運用を切にお願いしたいところです。
さいごに
今回は、事業再構築補助金を巡る最近の動向について整理してみましたが、いかがでしたでしょうか。
今後、事業再構築補助金の目的や内容など大幅な見直しが行われる可能性が高く、また補助事業の効果測定などについては他の補助金にも影響を及ぼす可能性も考えられます。引き続き本ブログなどを通じてタイムリーに皆様に情報を提供していきます。
なお、HKSでは各種補助金において、多くの支援実績がございますので、よろしければご相談下さい!
HKSへのお問い合わせはこちら今回は以上となります。最後までお読みいただきありがとうございました。
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