HKSブログ
インボイス制度、どうせ課税事業者になるのなら・・・
はじめに
2月16日より確定申告の申告期間が始まりました。事業者の皆様におかれましては、いつにも増して忙しくされていることと思います。
さて、本年10月より「適格請求書等保存方式」、いわゆるインボイス制度が開始となります。これまで免税事業者であった方は
- 「課税事業者になる」か
- 「免税事業者を継続する」か、
どちらかを選択することとなり、迷っている方もいらっしゃることと思います。
今回は課税事業者になったばかりの方、課税事業者になろうかどうか考えている方に向け、インボイス制度について簡単にご説明しつつ、「課税事業者になる」ことを選んだ方を支援する国の施策について紹介したいと思います。
インボイス制度ってなんだろう?
まずインボイス制度について簡単にご説明します。キーワードは「課税事業者」「仕入税額控除」「適格請求書」の3つです。
①課税事業者
「一定以上の売上があり、受け取った消費税を納税する必要がある事業者」とお考えください。
洋服を販売している会社、A社(課税事業者)を例にお話をいたします。A社の店舗で55,000円(本体50,000円+税5,000円)の服が売れたとします。このとき、お客様から受け取った55,000円のうち5,000円は消費税として国へ納める必要があります。
②仕入税額控除
売れたA社の服は、22,000円(本体20,000円+税2,000円)でB社から仕入れているとします。
ここで、A社とB社が受け取った消費税をそのまま消費税を国に納めると、5,000円+2,000円で、7,000円の消費税が国に納められることになりますが、A社が仕入れた服は既に仕入れ時点で2,000円の消費税が含まれています(二重課税の状態となります)。これを解消するための制度が「仕入税額控除」です。
A社の例ですと、仕入れの時点で2,000円分の消費税を払っているため、A社が国に納めるべき消費税は5,000円-2,000円で3,000円となります。
③適格請求書
今回導入されるインボイス制度では「仕入税額控除を受けるためには、適格請求書が必要」という条件が新たに加わりました。
A社の例ですと、B社からの請求書が「適格請求書」でなければ、消費税として5,000円を納めなければならなくなります。これまで控除されていた2,000円がA社の負担となることから、A社としてはなんとしてでもB社から「適格請求書」を交付してもらいたいと考えることでしょう。
さて、この「適格請求書」ですが、誰でも交付できるわけではありません。冒頭で「免税事業者」「課税事業者」について書きましたが、「課税事業者」であることが「適格請求書」交付の条件となります。
メリットとデメリット
ではここで、「課税事業者になる」こと「免税事業者を継続する」ことの、メリットとデメリットについて比べてみたいと思います。
課税事業者になる | 免税事業者を継続 | |
消費税 | 納税しなければならない | ○納税しなくてもよい |
適格請求書(インボイス) | ○発行できる | 発行できない |
事業・取引機会 | ○現状維持、もしくは拡大 ⇒課税事業者との取引機会を確保 |
現状維持、もしくは縮小 ⇒課税事業者からの取引機会は減る |
手続き等 | 消費税の申告手続き、請求書発行等、事務作業が増える | ○現状と変わらない |
いかがでしょうか。一長一短、それぞれメリットもあればデメリットもあります。「免税事業者を継続する」方は消費税の納税はしなくてよいものの、事業の機会が減少することは否めません。一方「課税事業者になる」方は、消費税の納税や事務手続きの増加など、見て分かるデメリットに対し、メリットの方はというと「事業機会が拡大(するかもしれない)」という不確実なものです。
私見ではありますが、「攻めの課税事業者」「守りの免税事業者」と表現できるのではないかと思います。どちらの方向性で事業活動を行うかは事業者様の価値観もおありのことと思いますが、支援を行う当会といたしましては、「攻めの課税事業者」を選んでいただき、「出ていくお金も多く、事務作業も大変だけど、それ以上に稼げる事業者」になっていただければと考えております。
課税事業者のメリットを最大限引き出そう
ここからは「課税事業者になる」を選んでいただいた「攻めの事業者」へ向けた情報となります。まずは先ほどお伝えした課税事業者の特徴をまとめます。
- 消費税を必ず納めなければならない(金銭的負担)
- 事務作業が増える(時間・労力的負担)
- 課税事業者との取引機会が増える(可能性がある)
確実に増えるかどうかも分からない取引機会のために、あるいは取引機会が減らないようにするために、なぜ金銭や労力を負担しなくてはならないのか、とお考えの方もいらっしゃると思います。
「税金を正しく納める」ことはさておき、「事業者の労力・負担が増えること」は国としても本意ではありません。一方で、皆様には事業をしっかり育てていただき、「たくさん稼いで、きっちり納税する」サイクルを作ってほしいと考えています。
そこで今回は、「課税事業者になる」選択をされた事業者に対し、国が用意した支援策、2つを紹介したいと思います。
①IT導入補助金
「インボイス対応では事務作業が増える」とお伝えしました。この負担を解消してくれる施策が今回ご紹介する1つめ、「IT導入補助金」です。「IT導入補助金」とは各種ITツールや一部のハードウェアを導入する際、その費用を支援してくれるものです。
これまで手計算や独自のExcel表などを使用し、日々の帳簿をつけていた方もいらっしゃると思います。これまで負担に感じていた作業にインボイス対応が加わると考えると、「免税事業者のままでもいいか」と思えてくるかもしれません。本補助金ではこのような会計処理のみならず、日々の事業活動を効率的に進める様々なツールの導入に活用することができます。新たに課税事業者となることを選択されたこの機会に、デジタル化を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、これまでは補助金額に下限が設けられており、補助金額が一定額に満たないITツールの導入はできませんでした。このたびのインボイス制度をうけ、現在では下限額が撤廃されており、申請しやすい補助金となっております。
また、「どんなITツールが自社に合っているか分からない」「経営課題も把握しつつ、IT化を図りたい」とお考えの事業者様には中小企業庁のポータルサイト「みらデジ」もおすすめです。
詳しくはHKSブログの以下の記事もご覧下さい。
②小規模事業者持続化補助金(インボイス枠)
課税事業者となることで消費税を納税することが必要となりますが、売上や販売機会がこれまで通りだと何のメリットもありません。何としてでも納めた消費税以上の売上・利益は獲得したいところです。ここで活用いただきたい2つめの施策が「小規模事業者持続化補助金」です。
こちらは「持続的な経営に向けた経営計画に基づく、小規模事業者等の地道な販路開拓等の取り組みや、業務効率化の取り組みを支援するため、それに要する経費の一部を補助」するために創設されたものです。
規模の小さな事業者を成長させるため、主に「販路開拓」の面からサポートする国の制度、
とお考えください。
インボイス制度開始前より多くの小規模事業者に利用されてきた補助金で、最もスタンダードな「通常枠」では補助率2/3、最大50万円が補助されます。「25万円で75万円分の販売促進活動ができる」ことになります。
現在の公募では「インボイス枠」という新たな枠ができています。今回のインボイス制度を受けて「免税事業者から課税事業者になる」ことを選んだ事業者について、補助額が通常枠の2倍、100万円になるというものです。「50万円で150万円分の販売促進活動ができる」と考えると、より魅力的で効果のある販促活動が展開でき、新たな販路開拓ができるのではないでしょうか。
なお、この「小規模事業者持続化補助金 インボイス枠」ですが、基準となる期間内に「免税事業者から課税事業者になった方」限定となります。「攻めの課税事業者」を選び、リスクを覚悟した事業者様の、最初のリターンとして活用してみてはいかがでしょうか。インボイス制度(=課税事業者になること)をピンチではなくチャンスにできるかもしれません。
“補助金”という金銭面以外にも、商工会議所・商工会との連携、経営コンサルタントと一緒に作る事業計画書、定期的に事業を見直す機会など、得られるものがとても多いと思います。
なお、本年2023年より小規模事業者持続化補助金から「インボイス枠」がなくなる見込みです(2022年11月8日閣議決定 令和4年度第2次補正予算案)。しかし「これをもってインボイス発行事業者への特別対応をやめる」という訳ではありません。
補助上限額について「免税事業者からインボイス発行事業者に転換する小規模事業者は、一律50万円上乗せ」とあり、用意されたいずれの枠を選んでも「新たにインボイス発行事業者になった事業者」であれば、補助金上限額が引き上げられるというものです。
新たに課税事業者になった小規模事業者への支援が、より拡充されたと言えるでしょう。
詳しくはHKSブログの以下の記事もご覧下さい。
課税事業者のデメリット・不安は補助金を活用して解消!
「IT導入補助金」と「小規模事業者持続化補助金」についてご紹介いたしました。課税事業者になるにあたって考えられる心配事として2点(①事務作業が大変、②事業機会が拡大するとも限らない)を挙げましたが、その2つともを解消できる施策だったのではないでしょうか。
ITツールによる省力化・業務効率化(IT導入補助金)し、得意分野の事業活動で存分に強みを発揮し、販売促進活動(小規模事業者持続化補助金)を通じてどんどん自社の魅力を発信し、新たな機会を獲得していただければ、当会としても本望です。
- 消費税を納税しないといけない(金銭的負担)⇒払いましょう(それ以上に稼いでやりましょう)
- 事務作業が増加(時間・労力的負担)⇒IT導入補助金で解消
- 課税事業者との取引機会増加(の可能性)⇒小規模事業者持続化補助金で販路開拓・チャンスを獲得
まとめ
最後の最後で少し話は逸れますが、ダイエットの話をします。体重を維持するには「摂取カロリー」と「消費カロリー」を同じにすればよく、
- 「好きなものをたくさん食べて、運動をする」方法、
- 「ほとんど食べず、運動もしない」方法
どちらを選んでも「体重の維持」という目標は達成できるでしょう。しかし、「体重」という数値は同じであるものの、前者は「色々なものを食べた」「さまざまなスポーツを楽しんだ」といった経験が残るのに対し、後者から得られる経験はあまりないのでは、と考えます。
改めて、事業活動の話に戻ります。「税金は少ないほうがいい」「事務作業を増やしたくない」ことから、「現状維持(免税事業者の継続)」を選ぶことは心情的にもとても理解できます。しかし、納税や事務作業は皆様の事業活動(=一番やりたかったこと)が行われた結果、付随的に発生するものです。「税金を抑えたい、事務作業を減らしたいから事業を縮小しよう」という考えは本末転倒と言えましょう。
販路を開拓し、事業を大きく育て、
負担となる事務作業はITツールで省力化し、
きっちり稼いできっちり納税する。
そこから得られる経験こそが、皆様の事業活動の本懐なのではないでしょうか。
今回「課税事業者になること」を決断された皆様の、事業を育てるお手伝いができることを、一同楽しみにしております。
下記リンクより無料相談を承っております。
補助金活用支援会(HKS)パートナー、中小企業診断士、健康経営エキスパートアドバイザー。
ひとこと:経営者の皆様が本当にやりたい事業ができるよう、各種補助金を活用してお手伝いします。