HKSブログ

経営者の皆さんの「気がかり」を、次の一手に変える
中小企業診断士の活用法 第2弾

工場の従業員の話を聞き、経営者と中小企業診断士が現場の気がかりを整理するイラスト

現場の声を聞き、課題を整理するイメージ(AI生成)

前回の記事では、中小企業診断士は補助金申請を支援するだけでなく、経営者の皆さんの壁打ち相手として、事業の考えを言葉と数字に整理する役割を担うとお伝えしました。

実際の相談では、経営者の皆さんが最初から「これは経営課題だ」と整理しているとは限りません。

「最近、現場の雰囲気が違う」「新しい取組を始めたいが、何から決めるべきか分からない」「お客様の要望に応えているのに、なぜか利益が残らない」。こうした言葉になりきらない気がかりの中に、次の一手を考えるヒントが隠れていることがあります。

今回は、筆者が海外の製造現場で経験した「幽霊騒動」を手がかりに、見えにくい課題と向き合うために中小企業診断士をどう活用できるかを考えます。

今回お伝えしたいポイント

  • 数字や手順に現れない現場の変化を、まず事実として受け止める。
  • 不安が安全、品質、人材定着に及ぼす影響を整理する。
  • 経営者の皆さんが判断しやすい形へ、気がかりを言語化する。

1.気がかりは、最初から経営課題の形では現れません

中小企業では、経営者の皆さんと現場の距離が近いからこそ、小さな変化を肌感覚で捉えることができます。一方で、その感覚は忙しい日々の中で後回しになりがちです。「いつもと少し違う」という違和感は、売上や原価のように会議資料へすぐ現れるわけではありません。

例えば、朝礼で発言が減った、引継ぎが以前より曖昧になった、若手が残業をためらうようになった、といった兆しです。

一つひとつは些細でも、放置すれば安全上の不安、品質のばらつき、離職のきっかけへつながることがあります。気がかりを感覚だけで終わらせず、何が起きているのかを確かめることは、経営の大切な仕事の一つといえるでしょう。

もちろん、すべての違和感に大きな問題が隠れているわけではありません。それでも、何も起きていない段階で立ち止まり、現場の人に尋ね、状況を確かめることには意味があるように思います。

事故や品質不良、退職という形で表面化してから対応するよりも、兆しの段階で手を打つ方が、経営への負担を小さく抑えられる可能性があります。

2.幽霊騒動が映した現場の不安

ちょっと極端な例ですが、筆者が経営の在り方を考えるきっかけになった事例をご紹介したいと思います。

海外の製造現場で経営管理を担当していました。工場で夜間勤務(夜勤)をすることになり、始めたばかりの時期に、現場で幽霊騒動が起きました。「夜の工場で幽霊を見た」という話が従業員の間に広がり、工場勤務の従業員の間から夜勤を怖がる声が相次いだのです。

幽霊騒動のあったとき、一人の従業員が「憑りつかれて」持ち場を離れて徘徊していた、とのことで、急遽構内で休ませる対応を取る場面もありました。現場の緊張は、明らかに高まっていました。

幽霊がいたのかどうかを、証明することはできませんでしたし、証明することに必ずしも意味があるわけではありません。しかし、従業員たちが本当に怖いと感じ、勤務に支障が出かねないなら、その不安は経営管理上、向き合うべき現実となるでしょう。

「根拠のない話」として退けるのではなく、まず本人の安全を確保し、現場の声を聞き、勤務環境や連絡体制を改めて確認しました。加えて、現地の習慣にも配慮しながら、従業員が安心して戻れる環境を整えるように努めた、という事例です。

ここで大切だったのは、幽霊の存在を論じることではなく、幽霊騒動が現場にもたらしている影響を見落とさないことではないかと思っています。安全の仕組みは、ルールや設備だけで完結するものではありません。働く人が「ここなら安心して働ける」と感じられることも、安全を支える土台の一つになるでしょう。

現場の雰囲気は、管理部門からは見えにくいことがあります。だからこそ、数字や規程で把握できる事実と、働く人が口にする不安や不満の両方を受け止める必要もあると感じた場面でもあります。

経営管理の役割は、目に見える指標を追うことだけではなく、指標になる前の変化に気づける場をつくることでもあると、この経験から学びました。

海外の製造現場で経験した幽霊騒動と、そこから考えた「見えないものを見る経営」については、中小企業診断士中央支部 国際部「Global Wind」に寄稿した記事でも詳しくご紹介しています。

3.中小企業診断士が整理する三つの視点

01 事実

何が起きているかを、評価を交えずに集めます。誰からどのような声が出ているのか、いつから変化があるのか、作業や勤務の状況はどうか。小さな兆しも記録すると、感覚だった気がかりに輪郭が生まれます。

02 影響

その変化が安全、品質、納期、原価、人材定着にどのようにつながり得るかを考えます。直ちに数値で測れないことでも、放置した場合の影響を言葉にすれば、優先順位を検討しやすくなります。

03 対応

今すぐ行うことと、時間をかけて整えることを分けます。現場の声を聞く場を設ける、手順や連絡経路を見直す、管理者が定期的に確認するなど、実行できる行動へ落とし込みます。

中小企業診断士は、経営者の皆さんの代わりに結論を決める人ではありません。経営者の皆さんが感じている気がかりを、事実・影響・対応に分け、社内で共有し、判断できる材料に整える役割を担うことがあります。

例えば「従業員が元気がない」という相談なら、人数の増減や残業時間だけでなく、配置の変更、仕事量の波、管理者との関係、仕事の意味の伝わり方まで目を向けます。

すぐに答えを出すのではなく、関係する事実を一緒に並べることで、社長自身が次に確認すべきことが見えてくる場合があります。

この整理は、課題を必要以上に大きく見せるためのものではありません。限られた人員と時間をどこへ振り向けるかを見極めるためのものです。

問題がなければ、その確認自体が安心につながるかもしれません。課題が見つかれば、早い段階で関係者と共有し、無理のない順番で手を打ちやすくなります。

4.中小事業者が変化の前後にできること

特別な制度や大きな投資がなくても、日々の経営の中でできることがあります。特に、夜勤の導入、設備の更新、担当替え、レイアウト変更など、現場に変化を加える前後には、次の点を意識するとよいでしょう。

  • 変化の目的と、現場で何が変わるのかを、管理者と従業員へ具体的に伝える。
  • 作業上の困りごとや不安を、短時間でも定期的に聞く場をつくる。
  • ヒヤリとしたこと、伝達の行き違い、欠勤や残業の偏りなど、小さな兆しを残す。
  • 直ちに必要な対応と、仕組みとして見直すべき対応を分け、担当と期限を決める。

経営者の皆さんが現場をよく見ている会社ほど、こうした対話の機会は自然に生まれています。そこへ第三者の視点が加わると、社内では当たり前になっていたことも、経営課題として整理しやすくなります。

特に、経営者の皆さんが一人で判断を抱え込みやすい会社では、定例会議や月次の確認に「数字では説明しにくい気がかり」を話す時間を短くても設けることも一つの方法でしょう。

売上や利益の議論と切り離さず、人や現場の変化を同じテーブルで扱うことが、早めの対応につながる可能性があります。

5.課題が言語化されていなくてもいい。
とにかく早めの相談を

「何を相談すればよいのか、まだ分からない」という段階でも、中小企業診断士を壁打ち相手として活用できる場合があります。

補助金、事業計画、資金繰りといった明確なテーマだけが相談の入口とは限りません。経営者の皆さんが抱く漠然とした違和感を持ち寄り、状況を整理することから始めることもできます。

前回お伝えしたように、中小企業診断士の価値は、制度や理論を示すだけではありません。経営者の皆さんが気づいているようで言葉にできない課題に、一緒に輪郭を与えることにもあります。

現場の安全や安心、品質、人材定着は、どれも日々の信頼の積み重ねです。見えにくい変化を丁寧に受け止め、次の一手へ変えていく。その対話の相手として、中小企業診断士を活用していただければと思います。

経営者の皆さんであれば、日々の現場で起きる変化に対し、直感や経験を生かして対応されていることも多いでしょう。

その判断には、長年培われた顧客理解、現場への目配り、従業員との信頼関係が生かされています。中小企業診断士は、その大切な判断を外から置き換える存在ではありません。

むしろ、判断の背景にある考え方や行動を言葉にし、社内で共有できる形へ整理し、形式知として残していくお手伝いをします。それによって、担当者や状況が変わっても活かせる再現性が生まれ、経営判断の質をさらに高めていける可能性があります。

相談の場では、完成された資料や結論を用意する必要はありません。「このままでよいのだろうか」と感じていることを、具体的な出来事とともに持ち寄るだけで十分です。

外部の視点を通して見直すことで、これまで強みだと思っていなかった現場の工夫や、守るべき組織の良さが見つかることもあります。気がかりを感じたときには、ぜひ中小企業診断士へご相談ください。中小企業診断士を積極的に活用することが、業績の向上と企業の持続的な成長を支える一助となれば幸いです。

気がかりを、次の一手へ。

日々の経営で感じていることを、HKSと一緒に整理してみませんか。

HKSへのお問い合わせ

クラウド経営顧問サービスを見る

あわせて読みたい:補助金で終わらせない、中小企業診断士の活用法(第1弾)

\ 最新情報をチェック /

関連記事

コメントは利用できません。
トップへ戻る